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リペア業、リペアスクール、モルタル造形。ネットと仕事を密接につなげる「アーティストひらのたけし」はなにを目指しているのか?

このページを読んでいるということは、リペアマン、リペアスクール、またモルタル造形を手掛ける「ひらのたけし」に興味が少なからずあるということでしょう。

改めて軽く紹介すると、ひらのたけしはブログとインターネットを駆使して集客をしている神戸のリペア業者で、2015年からリペアスクールを開始。

のちにTHJAPAN株式会社を設立し、現在はUFCファイターとなった平良達郎のスポンサー(2年目更新したようです)をしたり、前髪を緑に染めたり、2023年4月は2022年10月に続いてアメリカに「ヴェネチアン・プラスター」の施工修行しにいく、ちょっと変わったアーティストです。

一般的なリペア業者とはイメージが違いすぎるひらのたけし。もともとオーストラリアでロックギタリストでツアーも回っていたこともあることから、アーティストとしての側面も見え隠れしています。(見た目とか考え方とか)

この記事では、「ひらのたけし」はなにを目指しているのか、仕事をする上での活動の源泉はなんなのか、そしていま何を考えているのか、を聞いてみました。

仕事を依頼したい、ひらのたけしから学びたい方々はもちろん、自分が輝くために行動をしたい人すべてに読んで欲しい記事です。

文:橋本憲太郎

リペアマンが自己投資を続ける理由

この文章を書いている丁度4月の半ばごろ、ひらのさんはアメリカのフロリダ、タンパという街にいます。タンパに行くのは2022年10月以来約半年ぶりで、今回の滞在は2週間。バカンスか?と思いましたがそうではなくて、「ヴェネチアン・プラスター」という漆喰の技法のひとつを学びに現地で活躍されているアーティストのところに修行をしに行っています。

数年前にふとしたキッカケでベネチアンプラスターについて知ったひらのさんは、どうにか日本でもこの技術を使えないか色々調べたり試したりする中、今日本で可能な範囲だと限界があると判断します。そこで、海外のアーティストを探すうちに、フロリダタンパの「ロン・フランシス」さんをInstagramで見つけました。

そこからHPを拝見し、メール。「技術を見させて欲しい」とやり取りをはじめ、2022年の10月についに現地に行きます。すごい。メールでしかやり取りをしていないひらのさんを受け入れてくれるロン・フランシスさんもすごいけど、実際に現地に飛び込んでしまうひらのさんもとってもユニークです。

10月の交流の様子

そこで、10月では短い期間ですがロンフランシスさんのエネルギーを受け取り、技術的なことや考え方、またはパーソナルな人柄のことも聞き、半年後にまた来ることを約束。今回は2週間の滞在で、彼のお仕事を手伝いながら、技術を学んでいくとのことです。仕事を手伝うとは言ってましたが、今回は報酬についての相談や交渉、話題などは一切していないとのこと。

 

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そこは損得ではなく、本物に触れられることこそが大事。自己投資ですし、それを習得して今の時点でお金になるかはわからない。ですが、それをお金にしていくこと自体はまた別の戦略で動いているとのことです。これについては後述します。

ひらのさんは、やりたいことがあればそこに向かって飛び込むのは17、18歳のときから何も変わってないといいます。

オーストラリアでギタリストをしていた話、くわしくは「ひらのたけし」のサイトを読んで欲しいのですが、自分の好きなバンドでギターを弾きたい。よし。直談判だ。と曲を全部覚えて単身オーストラリアに出向き、猛アピールをし紆余曲折のうち勝ち取る。という、まさに事実は小説より奇なりな原体験があります。

40歳を過ぎてもひらのさんの本質的な部分は何もかわっていなく、やりたいことを実現する力、そのために動くパワーは恐ろしいものがあります。

ですが、皆さん気付いたでしょうか?このホームページを何度か訪れた方や、Instagramを見たことがある方はうっすら気付いているのかもしれないですが、ひらのさんは「チャレンジを美徳」としていないですし、チャレンジや挑戦をあまり意識していないんですよね。

「チャレンジしているような雰囲気が無い」と伝えたところ、こんな言葉が帰ってきました。

「恐らく僕は諦めが悪いと思います。やりたいことを自分のビジネスでやりたい。これだけを考えてここまで生きています。会社をやっているので、もちろん社会貢献の側面も必要だと思いますが、そうではなくて『僕は僕のやりたいことをやりたい。僕がやりたいんです』なので、世の中を変えるために仕組みづくりをしているのではなく、自分がやりたいことをやるために仕組みづくり、チームづくりをしています」

組織化は自己表現ができる仕組み

節々からアーティストな考え方が飛び出してくるひらのさんですが、今は法人化して社員を1人雇っています。ひらのさんが考える組織化、チーム化は我々が考えるそれとが違います。

今回、アメリカに2週間学び、自己投資をしに行っていますが、ひらのさんはフランス人の奥様と国際結婚をしているので、毎年5月ごろにフランスに帰っています。これまでは、フランス滞在時は仕事が出来なかったため、他の月にしっかり稼いでフランス滞在時はバケーション。のような形を取っていますが、社員を雇うことによりフランス滞在時でも日本の現場の仕事が回せるようになりました。

今回のアメリカ出張も同じことで、日本のリペアの現場仕事は社員さんに任せていて、ひらのさんは事業を広げる可能性を求めてアメリカにいます。スケジュール管理や指示などはしているそうですが、原則的に1人でも任せられるようにはしているとのこと。

そこで、社員を雇うにあたって気をつけていることがあります。それは「独立志向が強い人を入れない」ことです。

情報社会となり、ネットやSNSを開けば「個の力」「会社独立」「1人でも生きていけるように」など煽り文句が並びます。(この記事を書いている筆者も個人事業主7年目でライターを中心に生きています)ですが、個の力を付けてもらうために雇っているわけではなく、ひらのさんがやりたいことを気兼ねなくやり、学び、新しい環境に飛び込むためのひとつの手段として雇っています。

この話を聞いたときに、まさにアーティストの考え方である。と納得しました。

音楽アーティストに例えるとすごくわかりやすいのですが、例えばB’zは1つの会社としてすごく大きく、数多くのスタッフを雇っています。彼らスタッフはB’zの2人の音楽表現を最大限に活かし、広げるために従事しています。決して、自分がB’zになるために働いているわけではないんです。スタッフの中には松本さんのギターをチューニングする人、メンバーのドラムを組み立てる人(ローディーと言ったりします)がいますが、彼らは松本さんの立ち振舞いやギターの奏法を間近で見られるので勉強になる部分は多いと思いますが、松本さんからギターの弾き方を習うことはありませんし、ここで働いて次のB’zになれよ。と育成しているわけでもありません。

ですが、実際の世の中は「そこで仕事を覚えていずれ独立する」のような考え方がかなり多いような気がしています。先程書きましたが、B’zに例えると、そんなのありえないよね。とわかると思います。

ひらのさんは、まさにそれを実行していて会社組織もアーティストの会社のように仕組み化していることがとてもユニークだな。と感じています。なので、リペアマンを増やしてリペア業をどんどん大きくすることには興味が無いようで、拡大を目的とした社員雇用は考えていないようです。

わがままを押し通す力

ひらのさんの話を聞いていて、「わがまま押し通す力」がとても強いと印象的です。話の中には綺麗事はなく、純粋に1人のアーティストとして依頼を請けたい。そんな人間に近づきたい。とのまっすぐな意思が痛いほど伝わってきました。

UFCファイター、平良達郎選手のスポンサーをしています。

そんなまっすぐなひらのさんですが、先程の社員の考え方のように、現実的な面も兼ね備えています。個人的なイメージですがアーティストに寄りすぎている人は商売が苦手な印象があります。ですが、そこの割り切りをしっかり考えていることがとても参考になります。

それは、自分のやりたいことを実現するために、仕組み化をする。ということです。社員の仕組み化をはじめ、リペアスクールの仕組み、リペアの動画販売サイト構築の仕組み(月額1万円でリペア動画が見放題。毎月1本新規動画を追加する)、もちろんリペア事業など、やりたいことをするには売上が必要です。

アーティストとして技術を習得しつつ、そのあとの仕組み作りが重要です。そこは、ある程度習得したらその技術をどうやってお金にしていくか?を経営者の視点で考えているそうです。興味の赴くままにその技術を習得したり、体験したあとは、それをやり続けるための仕組みを作る。

お金がどこかで発生していないと、アーティストは表現し続けられません。やりたいことを続けるために、それをお金にする。言葉にすると至極当たり前な話ですが、それを実現し続けるために日々考えて実行していることは、このリペアブログにちりばめられた仕組みをみればわかっていただけると思います。

具体的には、ブログ記事で伝えるスキルを学び、サブスクの仕組みを整える、HPでスクールの募集をする、などやりたいことをお金に変えるためにインターネットの力やツールをしっかり使っています。

世の中には便利なツールに満ちていて、必要と感じなければ無いものと同じですが、目的意識を持つことでそのツールの存在や活用法に出会える確率が上がります。

前例が無かったり、業界としての相性もあるかもしれないですが、僕はリアルな事業こそネットと相性が良いと信じています。目的を達成させるためにあらゆる手段を使えばいいんです。それも含めてわがままを貫き通す力なんだと思います。

アーティストひらのたけしの生き方

ひらのさんは「日本だけではなく世界でも認められる能力で活躍できること」を目標としています。

イギリスでリペアの仕事をしたり、オーストラリアから仕事の打診が来たり、アメリカに出張に行っていることを考えると、ある意味夢が叶っている状態ではあります。ですが、この出張頻度を増やしていったり、もっと世界で戦える能力を身につけて、ひらのさんがやりたいことをやっている状態を常に作り出すことを追求し続けるでしょう。

世界で戦うために避けては通れない技術が日本の「左官」であると認識しています。技術がとても細かく、そして奥が深い。海外発祥の技術とはきめ細やかさが段違いで、とても難しいと感じています。そう遠くない未来、左官の世界に入った際はまた特集を組みたいと思います。

1人の人間、アーティストとして依頼が来る、トータルインテリアの会社を目指して、オンラインのビジネス英会話レッスンも続けている、ひらのさん。挑戦に美徳を感じていない彼が、次にどんなものを我々に見せてくれるのか、どんな仕組みを仕込んでいくのか、これからも注目してください。

取材・文:橋本憲太郎